ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の四】ひと夏のドキドキ!?

1998年9月

 「忙しい?」と聞かれると、最近は実に正直に「ハイ、もう無茶苦茶忙しいです!」と答えるようにしている。「えぇまぁ何とか」とか「ボチボチでんな」などと“日本人してる”と結果 的に皆様に不義理をすることになってしまうからだ。では何でそんなに忙しいかというと(このCOLARE TIMESが出回るころには暇しているかもしれないけれど……)、この8月に二つの大きなイベントが控えているからだ。15日から20日まで、お江戸日本橋亭という寄席で、コラーレでもお馴染みの長唄三味線の二人組『伝の会』の大ライヴがある。何と昼夜二回公演で計12回、しかも多彩 な日替わりゲスト。お笛の人間国宝の寳山左衛門さんをはじめ、津軽三味線の木下伸市さん等ビッグな面 々。邦楽の世界では前代未聞の“興業”を実験的に行ってみようというもの。それに合わせてCDも作っちゃった。もう一つは、22・23日の両日、新宿のスペース・ゼロという、奈落(※)も客席もない空間を“芝居小屋”に作り込んで、若手歌舞伎俳優の自主公演。歌舞伎の大作中の大作『妹背山婦女庭訓』(ちょっとばかり筋はムズカシイけど、まぁ一言でいうと日本版『ロミオとジュリエット』かなぁ。二本の花道を使った大芝居なのです)の一部を省略した通 し上演。やはり歌舞伎の女形で人間国宝の四代目中村雀右衛門さんの門弟の皆さんによる自主研究公演……皆さん、京蔵さん達ですよ、「素敵に歌舞伎」の中村京蔵さん!両公演とも現在の伝統芸能の世界に一石を投じることは間違いないだろう。

 ところで、こういった公演に関わっていてよかったなぁとつくづく感じる時がある。「稽古」に立ち会えるからなのです。伝承の現場に触れる、いわば“生き証人”ってとこかな。昨年の桜梅会の稽古での一シーン。ある女主人に死なれた腰元がその亡骸にすがって泣く場面 があった。若手の女形は、亡骸の腰のあたりに取りすがって泣いた。すると指導に当たっていた雀右衛門さんが「もっと足元の方で泣かないと、悲しそうに見えないよ」との注意。その女形は即座に対応。演技する位 置を少し変える。するとどうだろう!

 稽古場の空気が変わっちゃった。鬢も衣装もつけない稽古着(ゆかた)のままの演技なんだけど、涙が出そうになる。

 つまり無理に熱演しなくても、悲しく見せる「型」があるんだ、ということ。こうやって「型」というものが作られ伝えられて来たんだなと感じる。こういう瞬間に触れたとき、僕はドキドキするのです。

※奈落
よく「奈落の底に突き落とされたような……」なんてこというけど、これも歌舞伎の世界から来た言葉。奈落とは舞台の下の空間を総称していう言葉なのです。回り舞台の仕掛けがあったり、道具類の置き場だったり、とにかく奈落の底は深くて暗いのです。

(1998年09月 COLARE TIMES 掲載)

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