ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
コラーレ倶楽部
アクティブグループの部屋
COLARE TIMES
【其の七】熱き思い
1999年2月
15年程前のことだったか、僕は初めて三味線という楽器を実際に弾く機会を得た。義太夫協会が主催する「義太夫教室」に参加した時のことだった。毎日のように見ている楽器、きっと「こう持って、ああ弾けばいいんだろう」とタカをくくっていた。しかし、そうは問屋が下ろさなかった。ギターのようにフレットがない……どこを押さえればいいんだろう? さてチューニング……アッ! 糸巻きの握りがクルクルっと戻ってしまった、アッ取れちゃった、壊しちゃったのか!? バチが薬指と小指に食い込んで、痛いの痛くないのって……こんな塩梅だった。とんでもない楽器だなと思った。高校生の時、ギターを買ったその日に「バラが咲いた」を弾き語りできるようになって、ブラバンでサックスを吹きこなし部長まで務めていた僕のプライドはズタズタになった(※)。
そんな三味線を自分の手足のごとく自由自在に操る演奏家の人達を見て、まずその技術力に僕は心から敬意を払う。好きとはいえ、職業とはいえ、きっと大変なご苦労があったんだろうなぁとも想像する。
西洋楽器を奏でる場合は、眉間に皺がよったり笑みを浮かべたり身体が揺れたり、感情がストレートに表現される場合が多い。それに比べて三味線は、終始ポーカーフェイスで“直座不動”。余分な表現は許されないから、演奏者の「熱き思い」が伝わりにくい性質は否めない。
「平成の三味線ニスト&語りニストたち」津軽三味線全国大会二年連続チャンピオンに輝き、エレキ三味線をひっさげ過激に挑戦をつづける<木下伸市>。歌舞伎の長唄三味線方として活躍する一方、得意のお喋りと共に笑いに満ちたライヴも100回を越えた<伝の会>。伝承芸の曲弾きにユニークな工夫を加味し、客席を沸かす義太夫三味線の<田中悠美子>。NHK大河ドラマ「元禄繚乱」にレギュラー出演、ますます快調に飛ばす浪曲師<国本武春>。目を見張る超絶技巧の持ち主たちであり、自らが奏でる音楽と現代社会と未来に対する「熱き思い」を軽やかに爽やかに語ることができる語りニストたちでもある。楽しみながら伝統の素晴らしさや奥深さを味わっていただくための現在最高のキャスティングだと自負している。僕も当日が楽しみだ。
(※)西洋楽器でも和楽器でも、正しいメソッドと継続とその楽器を好きになることで、必ず弾けるようになるものだと思います。僕の場合は継続ができなかったんだな……。
(1999年02月 COLARE TIMES 掲載)