ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
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COLARE TIMES
【其の壱拾弐】山姥ギャルに見る日本の文化的将来についての一考察
2000年5月
「足柄山の金太郎 熊にまたがりお馬の稽古……」後に、大江山の鬼退治で活躍する源頼光の四天王の一人として有名なあの坂田の金時の幼年時の伝説です。ところで、この金太郎のお母さんって誰だかご存知ですか? そうです、浄瑠璃(※)や歌舞伎の世界では、実は“山姥”なんです。皆さんはこの山姥にどのようなイメージを抱いていますか? 口が耳まで裂け、目を剥いた鬼女……?
日本の伝統芸能には、山姥伝説を扱ったものが実にたくさんあります。能の『山姥』では“山の精”としての鬼女という設定。地唄はそれを歌曲化しています。面 白いのは、何といっても人形浄瑠璃として初演された近松門左衛門の『嫗山姥』。能の『山姥』に頼光四天王の世界をからませました。煙草屋源七実は坂田時行という人が廓で荻野屋八重桐という遊女と馴染みます。八重桐は廓話から恋の馴れそめ、ついには父の仇討ちをなさぬ 男の不甲斐なさをなじる。時行はそれを恥じて自分の魂を八重桐の体内に宿らせ男児になって再生すると言い放ち自害する。通 力を得た八重桐は後に山姥となり、男児を産む。その子こそ金太郎、後の坂田の金時というわけです。このストーリーをベースにいくつもの「山姥物」がつくられました。常磐津や清元の『山姥』、長唄の『四季の山姥』等、邦楽の演奏会では度々演奏されています。
さて! 東京は渋谷、原宿、新宿あたりでは、最近その“山姥”に出会うことができるのです。斑ヘアー、顔黒に涙マーク、白い口紅(?)、ミニスカートにお馴染み「厚底ブーツ」のいでたち。こーゆーギャルたちの集団が「マジ○×ダシーッ」とか言いながら迫ってくるとマジ恐いです。富山では如何ですか?
でも彼女たちは見事に「傾い」ているのです。「傾く」とはもともと習慣や常識からははずれ、傾いた姿や行動をすることを指したそうです。歌舞伎の祖といわれる出雲の阿国たちも男装に当時御禁制のロザリオを身につけていました。相当傾いていたと考えられます。「傾き→歌舞伎」なのです。もしかしたら今の山姥ギャルたちは“現代版出雲の阿国”なのかもしれません。とすると、彼女たちの“文化”が300年後には「超スーパーウルトラ歌舞伎」として伝承発展しているのかなぁ。
(※)浄瑠璃
一言で言うと、“ストーリー性のある語り物”という意味。上方では特に、人間浄瑠璃のナレーターとしての義太夫節を指すことが多い。
(2000年04月 COLARE TIMES 掲載)