ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
コラーレ倶楽部
アクティブグループの部屋
COLARE TIMES
【其の参拾壱】夏、雑感。
2004年7月
7月8日、東京35度。梅雨明け前の7月上旬というのにこの暑さ、というより“熱さ”。
1331年成立といわれている吉田兼好の『徒然草』に、「家の造りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころわろき住居は、たへがたき事なり」(五十五段)とあります。京都盆地という土地柄か、冬の寒さも厳しいけれど、熱気がこもってしまう夏の暑さは半端じゃないものがあります。家を建てる時は夏の事を中心に考える必要がある……エアコンのない時代。風通しの悪い家を造ってしまうと、そこは天然のサウナ状態になることは想像に難くありません。
そして2004年。都市部では、アスファルトの照り返し、エアコンの室外機の温風、高層ビル群によって遮られる風の流れ、フロン等によるオゾン層の破壊等々、様々な原因によって引き起こされる「ヒートアイランド現象」。兼好さんの教訓を活かしようのない現実と向かい合わなくてはならない現代社会。襖や障子をはずし簾(すだれ)を掛けなどして調度を夏向きにした「夏座敷」、「寝茣蓙(ねござ)に籠枕(かごまくら)」「浴衣や甚平」「打水に行水」「風鈴や釣忍」……私たちが子供のころ日常の光景であった風情は「昔は遠くなりにけり」の感があります。
芸能では、着流しに吉原被り(手拭を帽子状にして頭にのせる)、涼しげに川縁を歩く二挺の三味線。哀愁に満ちた曲節の「新内(しんない)流し」(いわゆる「ギターの流し」の原流といわれています)。『東海道四谷怪談』や『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)=「かさね」』といえば「夏芝居」。何といっても背筋がぞ~っと寒くなる怪談です。作者はあの四世鶴屋南北(文政12年・1829年没)。夫、伊右衛門に裏切られ、毒をのまされ形相の変わったお岩さんは、もうそれだけで十分コワイのに、次第に血まみれになって抜けていく髪の毛をつかんで悶え苦しむ(四谷怪談=「髪梳き」)……少しは「納涼」になりましたか?
先月6月、コラーレでもお馴染み長唄三味線の二人組「伝の会」(杵屋邦寿、松永鉄九郎)が、現代の沖縄音楽を代表するミュージシャンのひとり、新良幸人さんに招かれて沖縄市と那覇市でライヴツアーを行いました。どうやら大和の三味線の音色と音楽、そして彼らの爆笑トークは、芸能には厳しい沖縄の皆さんにも受け入れて頂いたようです! 水を打ったように聴き入り、お腹を抱えて笑い、踊りだすお客様、そして打ち上げで傾ける泡盛の美味!本当に楽しい旅でした。しかし成功の陰に隠れた苦悩が……何といっても湿気と暑さに弱い三味線の皮。長唄三味線は通常猫の皮を用いますが、沖縄の湿気には耐えられないと判断した私たちは、本来は用いない合成の皮に張り替えて今回のツアーに臨んだのです。音作りには苦労しましたが、沖縄のスタッフの皆さんが頑張ってくれました。三味線のルーツ「三線(さんしん)」はニシキヘビの皮を使いますが、さすがに三味線ほどヤワではないようです。
昨年の冷夏は、日本の社会、経済に大打撃を与えました。この数年、毎年「異常気象」と言われている気がしますが、今年の夏こそ無事に乗り切りたいものです。
(2004年07月 COLARE TIMES 掲載)