ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
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COLARE TIMES
【其の九拾参】唸って語れば……義太夫節、そして文楽讃!
2017年9月
人形浄瑠璃・文楽、初のコラーレ公演! 黒部の皆さまには実は最も出逢っていただきたい伝統芸能でした。ユネスコ世界遺産、能狂言、歌舞伎と共に日本を代表する文化資産……「だから見とかにゃっ!」という方はチケット購入をお止めになった方がよいと思います。そうではなく、義太夫節の太夫と三味線、そして人形遣いが、真剣勝負の火花を散らしつつも三位一体となって繰り広げる舞台は「本当に面白い!」のです。
三人で遣う人形はそれなりに大きく、人形に仕込まれた「人間の表情や動作に近づけるメカニック」にも目を見張りますが所詮は人形。決して“人間業”ではないので、テレビや映画、つまり映像ならではのリアリズムでも、ただ見ていれば“わかる”世界でもありません。しかも“伝統”芸能ゆえに様々な約束事に拘束はされていますが、その拘束こそ、エンターテインメントとして時代を超えて重ねてきた見せ方・魅せ方の工夫であり、巧妙に“前のめり”な見方を促し、物語の世界への同化を客席に仕掛けているのです。
そして、“もの言わぬ人形”に命を吹き込み、リアリズムを超えた喜怒哀楽を確実に伝えているのが義太夫節です。そもそも浄瑠璃とは「三味線と一体となって語られる物語」のこと。現在でも様々な浄瑠璃が伝承されていますが、その中でも義太夫節は「音曲の司(=王者)」と言われ、人形の存在とは別に、義太夫節そのものが「ひと声、ひとバチで人々を虜にする」だけの圧倒的な迫力と豊かな表現力を創り上げてきた歴史があります。義太夫節と出逢って衝撃を覚える方がいるかも知れません。人形を伴わない「素浄瑠璃」という義太夫節だけの演奏形態があります。愛好者による稽古人口の多さを誇っていた時代もありました。唸って語れば絵が見える!……太夫と三味線が100%身体を張らないと語り出せない世界ゆえ、思い切り想像力を刺激してくれるのが義太夫節の魅力です。「太夫と三味線が喧嘩でもしているのか?」というテンションでぶつかり合っている舞台に接すると、人形遣いの方には怒られるかも知れませんが、私は自然と舞台上手の「床」に身体が向いてしまいます。つまり義太夫節を聴いている、否、観ているだけでも充分インパクトがあるのです。
全国各地に、義太夫節を地域の求心力として位置付けてきた“まち”があります。人形浄瑠璃のメッカとも言える徳島と淡路は言うまでもありませんが、大阪の能勢町や砺波の出町などは、全盛期には比べられませんが、現在でも伝承の構造をしっかりと保ち続けています。
遡る2002年に上演された「ザ・忠臣蔵ナイト」公演の中で、女流義太夫の人間国宝・竹本駒之助さんがコラーレで初めて義太夫節を語りました。その後は「とやまのたから2015」公演において、出町で義太夫節の稽古に励んでいる子どもたちが日頃の成果を披露しました。
閑話休題、何といっても今回は人形浄瑠璃の象徴的な存在である『文楽』。必見とも言える代表的な演目を並べ、太夫、三味線、人形遣いの皆さんも気鋭の方々。熱演が大いに期待されます。改めて、チケット購入をお薦めします!
義太夫三味線
三味線の中でも大型で、その音を決定づける「駒」(コマ)に特徴があります。水牛の角に鉛を埋め込んだもので重厚な音をつくり出し、喜怒哀楽や自然描写など表現の幅を広げています。
義太夫三味線と長唄三味線のバチ
その形状、大きさの違いは言うまでもなく、バチ先が圧倒的に厚いのが義太夫三味線の特徴です。