ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
コラーレ倶楽部
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COLARE TIMES
【其の九拾四】続けること……
2018年1月
松尾芭蕉の集大成である俳諧紀行文『奥の細道』の冒頭「月日は百代の過客にして行きかふ年もまた旅人なり」が、盛唐の大詩人・李白の「夫天地者万物之逆旅、光陰者百代之過客(それ天地は萬物の逆旅にして光陰は百代の過客なり)」(『春夜宴桃李園序』)を基にしていることはあまりにも有名です。私たちは単に時の経つ早さを嘆く時に引き合いに出しがちですが、どうも「時間そのものの意味」を伝えている哲学的な深い表現のようです。
今回で5回目を迎えた『神楽坂まち舞台・大江戸めぐり』(主催:アーツカウンシル東京/NPO法人粋なまちづくり倶楽部)が、去る11月11日(土)・12日(日)両日に渡って賑々しく開催されました。
伝統と先端が融合し多くの人々が集う神楽坂。数多くの地元の方々の協力を得て、神社仏閣、店舗やライブハウスから路上に至るまで、2日間に渡って街を伝統芸能で埋め尽くすという他に例を見ない文化フェスティバル。若い世代や外国の方々をはじめ、普段馴染みの薄い方々に向けて、「日本の伝統文化との出逢いの場」をつくることが目的の事業です。
以前、このエッセイの84回目『「伝統芸能」二つの試み』でご紹介したのは、『神楽坂まち舞台・大江戸めぐり』2回目の時でした。当時は神楽坂で偶然出会うイベントというイメージでしたが、現在ではこれを目当てにご来場される方が確実に増えています。屋外のため、楽器や用具の使用についての懸念があるにも関わらず、出演者からは「自らが携わるジャンル、そして伝統芸能を広める活動に貢献できることが嬉しい! 来年も必ず!」という声が異口同音にあがっています。また運営、ボランティア両スタッフからあがった「伝統芸能と出演アーティストに関する情報を勉強して当日に活かしたい」という声に応える形で、事前に伝統芸能講座が開催できたこともモチベーションの高まりと受けとめています。このイベントの“定着”を感じます。こうした現状に接するにつけて、「時間をかけること」と「続ける」ことの意味と意義を痛感します。
もう一つご紹介したい“続けてきたこと”は、この『神楽坂まち舞台・大江戸めぐり』に、4年間に渡って富山県の「城端曳山祭・庵唄」をお招きしていることです。曲名や歌詞まで同じくし、まさに江戸端唄の流れを汲む「庵唄」を江戸文化の色彩を色濃く残す神楽坂でご紹介し続けたことが、時間を超えて「創り、育て、守ってきた価値」の共有と新たな展開に繋がったようです。
来る3月11日、南砺市城端伝統芸能会館・じょうはな座で「城端・庵唄のふるさと 江戸芸能の風景 (1) 端唄を落語・車人形とともに」という公演が行われます。絹織物が結んだ城端と江戸文化の関係を、当代の端唄の名人・本條秀太郎、江戸落語当代きっての噺家・古今亭菊之丞、そして八王子車人形・西川古柳座の皆さんで綴るものです。庵唄の原点の一つである江戸端唄と、城端の絹織物商人たちが目にした江戸の市井の人々の生活を、楽しく味わうことができることでしょう。
時短、即断即決、進化向上、さらなるデジタル化がより価値を持つ時代ゆえ、一過性の“打ち上げ花火”と感じる事業が目立ちます。神楽坂では、地元の方々の日常生活、“大切にしてきたこと”への敬意、この2点を忘れずに、これからも「時間をかけて」丁寧に積み上げて行きたいと思っています。
5回目となる『神楽坂まち舞台 大江戸めぐり』。各種三味線、箏、尺八、胡弓、邦楽囃子などの演奏をはじめ、江戸糸あやつり人形や手妻、芸者衆のお座敷遊び体験など様々な伝統芸能が、まちの至る所で繰り広げられました。約300年の伝統を誇る城端曳山祭(富山県南砺市)で伝承されている「庵唄」も神楽坂ではすっかりお馴染みになりました。
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