ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
コラーレ倶楽部
アクティブグループの部屋
COLARE TIMES
【其の四拾伍】邦楽語源ことば
2007年2月
節分や立春が間近とはいえ、実際には最も寒さの厳しい時期かと思われますが、“心”まで寒く冷え込んでしまうような出来事が頻発している昨今、季節だけでなく心にも早く春が訪れてくれることを祈る今日この頃です。
以前若いスタッフにさんざん小言を言ったあと「小姑みたいなことはこれ以上言いたくないっ! 以後気を付けるように!」とシメたつもりが、「すみません! 小姑って何すかっ?」……次の言葉が見つからず、「今時の若い者は!」と決して口には出さず心の中で叫んでしまった思い出があります。言葉は時代と共に生まれては消えてゆくもの。昨年「流行語大賞」をとったばかり、一世を風靡したはずの言葉すらすぐに思い出すことができません。そう考えると“別次元”で「小姑」を知らなかった彼を責めるわけにはゆかないのです。いわゆる若者言葉もいつかは一般化してゆくのでしょうか。
先日さるブティックで耳にした女子大生の言葉、「これってマジちょ~はでくな~い?」を“旧語訳”すると「これは真面目に言うと非常に派手ではないか」となります。実はこの中に三味線から生まれた言葉が使用されています。「派手」とはもともと「破手」から来た言葉だそうです。「今日は随分難しい手で弾いたね」とか「この詞に手を付けて」とか、楽器の演奏技法や楽曲のことを「手」と言いますが、オーソドックスな演奏技法を「破る」賑々しい演奏をすることを「破手」と言い、のちに「派」の字が当てられるようになったそうです。また、ギターのようにフレットのない三味線は、訓練によって体得した棹のポジションを押えることで音をつくります。そのポジションの事を「勘所」と言います。「勘所を押える」も三味線が語源と思われます。「メリハリのある生活」などと言いますが、この「メリハリ」も漢字では「滅張」と書き、もともと邦楽や歌舞伎の演奏・演技の強弱、緩急や抑揚のことを指して言う言葉です。
「奈落の底に落ちる」「差し金で動く」等、歌舞伎の舞台用語が日常生活に定着した例をご紹介したことがありますが、邦楽の世界で使われていた言葉が一般化して現在でも生きている例が実にたくさんあるのです。衣食住の延長にこうした芸能が根付いていた証とも言えるでしょう。文化に対する価値観の多様化した現代社会から、近い将来“市民権”を得て、時代を経ても使い続けられる言葉は果たして生まれるのでしょうか。
ところで、紀元前に描かれたのエジプトの壁画の文字を解読すると「今時の若い者は!」……このセリフ、言い続けられて今に至る。言葉をきっかけに人間の営みと未来について深く考えさせられます。
1月13・14日、東京ドームにおいて開催された「日本元気プロジェクトKANSAI SUPER SHOW『太陽の船』」に出演した<津軽三味線ユニット あんみ通>の「派手」なメイクと衣裳!
(2007年02月 COLARE TIMES 掲載)