ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
コラーレ倶楽部
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COLARE TIMES
【其の六拾】コラボレーション考
2010年5月
花冷えの続く東京。とはいえこれからの季節、様々な花が繰り広げる色彩の“コラボレーション”が野や街を彩ります。
コラボレーション。国語辞典を引くと「異なる分野の人や団体が協力して制作すること。また、制作したものをもいう。共同制作。共同事業。共同研究。協業。合作……」とあります。
私たちが携わる伝統音楽のジャンルにおける今までの経験を整理してみると、
(1)邦楽器同士(太棹三味線 vs 細棹三味線、津軽三味線 vs 和太鼓等々)、
(2)邦楽 vs 他ジャンル音楽(クラシック、ジャズ、ワールドミュージック、J-POP等)、
(3)邦楽 vs 身体表現(演劇、舞踊、ダンス、語り芸等)、
(4)邦楽 vs 美術(書道、絵画、彫刻、照明等)など、
実に様々な皆様との御縁が思い返されます。
まったくの別世界で育ち、たとえば「五線譜」のような共通言語を持たない者同士が、しかもそれ相応の水準以上の実力を有した者同士が、共通の着地点を見出し、そこに向かってスリ合わせやぶつかり合いをして、新たなる刺激を生みだすわけですから、アーティスト当事者のみならず関わるスタッフも、それは大変なエネルギーを要するのです。ゆえに、行う以上は、発信するアーティストにも受け手のお客様にも「良質な刺激」としての蓄積感が得られなければ意義を感じません。磨き上げられた芸を単体で味わった方が、よっぽど刺激的だし楽しいはずです。
宝塚歌劇団を退団し現在もアーティストとして一線で活躍する、まほろば遊(花組の男役)と真丘奈央(花組の男役)のお二人が、コンサートゲストとして二十五絃箏の中井智弥を迎えてくださいました。歌劇団時代から大切に歌い続けてきた「和」のテイストを持つ楽曲を、実際の邦楽器の音色と共に歌いたいという明確な目的のもと、1年以上前から計画されたものでした。宝塚の舞台で培ったその圧倒的な歌唱力と表現力、そして共鳴する箏の響き。真剣勝負ゆえにぶつかり合った本番までの労苦が吹っ飛ぶステージでした。
2005年、私が芸術アドバイザーを勤める船橋市民文化創造館きららHallの当時の館長さんが“仲人”となって結ばれた、日本の箏とフィンランドの“箏”(=カンテレ)。「伝統を核に展開する新たなる創造」を共通の価値観として抱いた中井智弥とエヴァ・アルクラは意気投合。共に伏絃の伝統楽器を通して両国文化交流の架け橋にならんと両国を度々行き来し、『楊貴妃』というCDをリリース。今初夏、三重を皮切りに東京、茨城、北海道、千葉とコンサート、ワークショップ、トークショウなどでつづるツアーが実現します。
即興性を旨とするためまずは「手合わせ」から始まるコラボから、一点一画を丁寧に共に積み上げてゆくコラボまで、コラボレーションに定型などはありません。しかし“コラボのためのコラボ”ではなく、共通の着地点とその波及効果を明確に意識しつつ、そのプロセスに必ず生じたであろう“ぶつかり合い”にもブレずに折れずに乗り越えて来た者同士が行うコラボレーションこそ、明日へのエネルギー源となる観モノ、聴きモノなのです。
2010年4月11日/TFMホール
中井智弥(二十五絃箏)と書道とのコラボレーション
(2010年05月 COLARE TIMES 掲載)