ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の六拾伍】奇跡の集団『弧の会』讃!

2011年3月

男性だけの日本舞踊家集団『弧の会(このかい)』

音楽、舞踊、演劇をはじめとする様々なパフォーマンス。毎日のようにジャンルを問わず様々なステージに“仕事”として触れていると、振り返れば学生時代、客席で覚えた感動から遠ざかっているような気がしてなりません。仕上がりが甘いだの、アンサンブルになってないだの、音のバランスがどうの、照明がどうの……よく言うと客観的ですが、我の至らなさを棚に上げ、眼前のステージを普通に批判的に観ている自分がいたりします。

そんな気分を久々に吹っ飛ばしてくれたのが、男性だけの日本舞踊家集団『弧の会(このかい)』でした。「日本舞踊界で今、最も注目の男性舞踊家集団『弧の会』。流派を超えて集まった男たちが、紋付袴のみのシンプルなスタイルで迫力に満ちた圧倒的な群舞を魅せる!」のキャッチフレーズ通り、日本の伝統的身体表現の格好よさ、奥深さ、素晴らしさを余すところなく感じさせてくれるスピード感と迫力に満ちたステージに言葉を失いました。

日常生活中の何気ない動作や喜怒哀楽の感情、さらに様々な動物の動きや花、月、風等々の自然事物の変化に至るまで、人が眼にする事象を「蓄積と洗練」を繰り返し、型として昇華した表現こそ日本舞踊と言えましょう。さらに、化粧や衣裳などの“拵え”をせず、紋付袴のみで踊ることを「素踊り」と言いますが、メンバー全員が素踊りで挑むのが、『弧の会』のスタイル。余分なものを削ぎ落とした身体表現ゆえ、神経の枝葉が全身に張り巡らされた踊り手たちの“切るか切られるか”という真剣勝負が展開されるのです。視線と視線が火花を散らし、息と息を詰め合う、呼吸の止まるような瞬間に遭遇した時こそ、表現者からのメッセージを「体感」できるのかも知れません。

今回コラーレで披露する演目は、憤怒の表情で甲冑に身を固めた武神・毘沙門天をテーマに、勇壮な琵琶の響きにのせておくる最新作「毘沙門(びしゃもん)」。そして、平成20年度、文化庁芸術祭、舞踊部門で優秀賞を受賞し、今や『弧の会』の代名詞とも言える代表作「御柱祭(おんばしら)」。長野県諏訪の奇祭・御柱祭、滑り落ちる大木に命懸けで挑む男達を、美しくもまた精緻極める照明のもと圧倒的迫力をもって描くステージは必見です。

流派や考え方も異なり、伝承、普及、創造とそれぞれが活動のフィールドを持つ多忙なメンバーが集合することは困難を極めるはずですが、伝統からのメッセージを多くの皆様に伝えたい、そして今と未来に活き続ける踊りを創りたい点…そんな着地点を共有するメンバーは、連日連夜熱くハードな稽古を重ねています。この姿勢にひたすら頭が下がります。
今という時代に向けて、「伝統の世界」からのメッセンジャーこそ“奇跡の集団”弧の会なのです。

(2011年03月 COLARE TIMES 掲載)

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