ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
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COLARE TIMES
【其の七拾参】世界一の電波塔
2012年7月
東京の旧国名「武蔵」にちなみ634m、自立式電波塔としては世界一に高さを誇る『東京スカイツリー』が2012年5月22日、グランドオープンを迎えました。その模様は全国に中継され、日本中がスカイツリー一色に染まりました。暗いニュースが続いていた日本にもたらされた久々に明るい出来事ゆえか、当分色褪せない話題として記憶に残ることでしょう。グランドオープンに先立ち、その高さ350m、スカイツリー第一展望台、エレベーター前に設置した特設ステージでは、5月14日から連日さまざまなイベントが行われました。
14日午前は、『開闢(かいびゃく)の儀』と題した開場式典。副総理や東京都知事を迎えて賑々しく催されました。古来「神霊は物に依りついて示現する」という考えから、神様の依り代として神社には高い樹木が付きものですが、「スカイツリーこそ今の日本、そして世界を守る神様の依り代である」という発想の演出。依りついた神様がしっかりその土地に根付いて戴くために演じられる『三番叟(さんばそう)』を、荘重に華麗に舞ったのは狂言師・野村萬斎さんでした。午後は、国会議員の皆さんが招待され、スカイツリー自慢の高速エレベーターの扉が開くと、山田流箏曲・萩岡松韻さんを中心に、東京芸大出身の現在第一線で活躍する演奏家の皆さんの演奏でお迎えしました。
15日・16日は、端唄・本條秀太郎社中、長唄・今藤長十郎社中、清元・清元美治郎社中、山田流箏曲の若手演奏家による演奏、さらに江戸の里神楽(さとかぐら)や太神楽(だいかぐら)が獅子舞や曲芸等で、各国大使をはじめとするさまざまな招待客の皆様をお迎えしました。江戸・東京で生まれ受け継がれてきた様々な伝統音楽や芸能が一堂に会し、実に多くの文化を生み出した浅草や隅田川流域を眼下に見下ろしながら繰り広げられました。実力も立場も一級の伝承者の皆さんによる息詰まる演奏や楽しくも華々しいパフォーマンスです。おそらく地上最高地点で演じられた伝統芸能なのでしょうが、何より新生・日本を象徴する建造物のオープニングを飾れたことに意義を感じました。
そして22日のグランドオープン。東武鉄道や東京メトロ、押上駅前が東京スカイツリータウン ソラミ坂ひろば。スカイツリーを背に打面3尺以上の大太鼓等、数多くの太鼓が居並びました。テープカットの“ファンファーレ”として、そして入場を待ちわびたお客様たちのお迎えとして、天邪鬼(あまのじゃく)や大元組(だいげんぐみ)、小林太郎さん、上田秀一郎さんら東京を代表する太鼓集団や若手奏者の皆さんの勇壮な演奏が鳴り響きました。
土地柄を反映させ、徹底的に江戸の文化にこだわってスカイツリーを彩ることがプロデューサーや演出家の意図でした。今回私たちはその意を受けて、上記一連の演奏の「制作」を承りました。1年半にわたって、今まで経験したことのない数々の課題難題を迎え撃ち乗り越える怒涛の日々でしたが、放送・通信界の次世代を象徴するスカイツリーにあやかって、伝統芸能にも新たな時代が必ずや来ることを願いつつ眺めた天空からの絶景は生涯忘れることができないでしょう。
(2012年07月 COLARE TIMES 掲載)