ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
コラーレ倶楽部
アクティブグループの部屋
COLARE TIMES
【其の百伍】尺八で空気を変える!
2021年1月
今回のコロナ禍で失ったものは有形・無形と問わず甚大です。しかし長期的視点に立つと、それなりに得るものが多いのではないかと考えるのです。中でも「文化」の意味と価値を再認識するキッカケになったことは間違いありません。音楽、演劇、舞踊などのパフォーミングアーツ、特に“生(ナマ)”で演じられる芸能こそ、私たちの「精神の糧」として生きてゆく上で不可欠な存在であることを、多くの人々は改めて受けとめたのではないでしょうか。
たった1本の真竹を加工して作る尺八。もちろん製作にあたっては非常にデリケートな工程が詰め込まれているとは言うものの、数ある楽器の中でも実に“単純な構造”の楽器と言えるでしょう。しかしながら音色の多彩さと表現力は、メロディを奏でられる主奏楽器として群を抜いています。
そんな尺八の世界に躍り出た4人の若者たちが黒部に登場します。尺八カルテットGMQ……基礎となる古典音楽を修めながらも、「時代とリンクする生きた音楽」を目指して、柔軟かつ過激に“今”にアプローチを架ける4人組です。
いわゆる伝承音楽の再現に主たる価値を見出す演奏家の方々からは、異端児、問題児扱いされてきました。居場所を探してもがいていた、尺八、そして音楽を愛する若い演奏家たちのエネルギーの求心力となったのが、尺八演奏家であり、自ら尺八製作者としても活躍する泉州尺八工房・三塚幸彦氏でした。三塚氏の考え方と人柄に共感する若い尺八奏者たちが集い、三塚氏が作る楽器に熱く思いを吹き込んでいるのです。
未来を見据えてさまざまな試行錯誤の末に開発された最新鋭のメタル尺八をも駆使して展開されるライブは圧巻……澱んだ空気をつんざくような鋭い音、疲れた心身を包み込んでくれる優しい音色、そして、尺八を通して「音楽の力」を伝えようとする心意気、そんな彼らの演奏を聴く……否、浴びていると、「音楽が精神の糧となる」その意味を体感できるのです。
写真:ライブでも使われるメタル尺八「AireedX」