ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
コラーレ倶楽部
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COLARE TIMES
【其の七拾八】ファシリテーター!?
2013年7月
湿気に悩む弦楽器奏者に神経を遣う、制作者泣かせの季節が巡ってきました。
今年もさまざまな学校公演やワークショップ等、子どもたちをはじめてとする若い世代と向き合う機会が多く、その目標設定、アプローチのかけ方、実施プログラム作成に対して、アーティストや学校の先生、自治体の文化事業担当者など行政サイドの皆さんと白熱議論の日々です。昨今、先進的かつ刺激的な方法論を基にした展開を希望される自治体、学校も少しずつ増加傾向にあり、こちらも大きく価値観の転換と方法論の開発、研究を迫られているのです。
しかしながら、現在でも大多数の学校は、体育館ステージでのパフォーマンスを望まれます。児童・生徒たちは体育館の床に“体育座り”。開演前に「一流のアーティストが皆さんのためにご来校くださり、素晴らしい演奏を聴かせてくださいます!マナーを守って姿勢正しく静かに聴きましょう!」と校長先生のご挨拶があって、終演時には児童・生徒の「お礼の言葉」があります。数日後には子どもたちの感想文が送られてくる……。「初めて観る、聴く」という非常に貴重な機会をつくってくださったことに感謝しつつも、こうした流れに対して、「これでいいんだろうか?」という実は言語化し得ない“もやもや感”を抱いていたのです。そこで最近の私は「先生、それ、1回止めてみませんか!?」と、失礼承知で遠慮なく申し上げるようにしているのです。もちろん「学校」という組織としての事情もあり、こうした“昔ながらの”学校公演のカタチに対して一方的に異を唱えている訳ではありませんが、この事業を行う目的は「子どもたちの感動と笑顔」ただひとつのはずです。お尻が痛いことや、義務的に感想文を書かされる憂鬱さは、感動や笑顔を半減させてしまうのではないかと心配でなりません。
感動と笑顔は、間違いなく「想像力」「創造力」「コミュニケーション能力」などを引き出す力を持っています。未来の社会を担う子どもたちにとって、私たちの存在が何らかの役に立つためには、感動と笑顔を生み出す仕掛けに創意工夫を加え続けてゆくことしかないと感じています。「文化」は社会を活性化させる原動力に他なりません。
3月5日、ミューザ川崎シンフォニーホールで「ロンドン交響楽団 教育交流プログラム『音楽家のための教育プログラムの実践』―音楽家のためのトレーニング」(ブリティシュ・カウンシル主催)というワークショップが行われ、ロンドン交響楽団のファシリテーターとして活躍しているレイチェル・リーチさんが行う教育プログラムに参加してきました。リーチさんは一線で活躍する演奏家でもありますが、私たち参加者の“心の鍵”を開け、知らず知らずの内に音楽の楽しさに巻き込む手法の見事さに、ワークショップの専門家とも言える「ファシリテーター」の役割と重要性を再認識させられました。「伝統芸能の世界にこそ求められる存在なのだ!」と、昂った気持ちに、束の間ですが“もやもや感”が晴れた気がしました。日本の教育・文化シーンの現状と向き合い、次なるステージに上がるための大きな目標を与えられた1日でもありました。