ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い
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COLARE TIMES
【其の八拾四】「伝統芸能」二つの試み
2015年1月
古来多くの文学的感興をそそってきた秋を“通り越して”、一気に冬が来てしまった感があります。これも異常気象のなせる業でしょうか。
今秋、神奈川県と東京都で、「伝統芸能」の新たな提示の仕方を問う二つのイベントが実施され、その制作に携わりました。
昨年度(2013年)よりスタートとした『カナガワ リ・古典プロジェクト』。過去に生まれ、時代や場所を変えても受け止める人々の胸に響き、明日への何らかの糧となる表現や作品を「古典」と定義します。その古典(地域の“たから”である文化遺産)を現代という時代のフィルターを通し、今を生きる文化芸術として、Re: =見詰め直し、再生し、伝統文化の魅力を多くの方々に体感していただく……という意義深い主旨のもと、今後も展開が期待される神奈川県の文化事業の一つです。
1回目は、西洋文化流入の地・横浜に、そして2回目となる2014年は、神奈川の地理的特徴を象徴する海にスポットを当てることになりました。“絵の島”とも言われ、古くは浮世絵にも多く描かれ、芸能・音楽の神として古くから信仰されてきた弁財天を祀る湘南の名勝地・江の島。10月4日、「江の島まうで舞をどり」と称し、参道から灯台横の江の島シーキャンドルサンセットテラス特設ステージを舞台に、神奈川県各地の民俗芸能や能「江野島」などを、コンテンポラリーダンスの旗手の一人として注目される白神ももこさんの構成、演出で上演しました。神奈川県の“たから”を、地域性や現代的感性と結び付けて表現する実験でしたが、最後はステージと観客とが一体となり、白神さん振付の“新・ささら踊り”で大いに盛り上がり、芸能の本質を見るような素晴らしい祝祭空間が生まれました。
民俗芸能が生まれ様式化され伝承されてきた背景は、地域の歴史や信仰を抜きには語れることはできません。それゆえ、例えばその芸能がいつも奉納される神社で上演されるからこそ意味があるのです。
地域のアイデンティティを象徴する一つとして、民俗芸能を特に若い世代に伝承することは急務なのですが、それを許さない現代の社会構造の壁の前に、各地域の公共ホールで行われている「民俗芸能大会」なども試行錯誤の壺中にあると言えましょう。そんな状況に一石を投じる成果を見ることができました。
続いて、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)が主催する『神楽坂まち舞台・大江戸めぐり』。江戸東京六花街(ろっかがい)の一つで、フランスをはじめとする多くの外国文化を包含してきた神楽坂。伝統と先端が融合する街・神楽坂全体を大きな舞台と見立て、粋でスタイリッシュなさまざまな伝統芸能との「出会い」を演出。江戸情緒に包まれつつ今を生きる日本文化の華やかな魅力を体感していただこうというコンセプトで、11月15日「前夜祭」、16日「本祭」と2日間に渡って実施されました。「新内流し」が粋な三味線の音色を響かせながら路地を流したり、歩行者天国中の神楽坂通り4か所のスポットで11組の各種邦楽奏者や江戸太神楽、江戸糸あやつりによるパフォーマンスが1日中行われるなど、伝統芸能の世界において野外で行われるものとしては前代未聞の大イベントで、プレーヤーたちも来場のお客様も街も大いに盛り上がりました。
さらに特筆すべきは、このイベントの主旨の中に「首都東京という窓口を通して、日本各地の優れた文化を紹介する」というものを加えられたこと。江戸の端唄が独自に姿を変えて伝承されている富山県城端(じょうはな)『曳山祭り』の「庵(いおり)唄」と、神楽坂と同じく花街文化が残り、歴史的街並みを残す石川県金沢で活躍する横笛奏者・藤舎眞衣さんをお招きできたことです。開催国、開催地の文化を内外に広く紹介するという文化事業としての側面をも持つオリンピックに向けても、日本の伝統文化を世に問う新たな形として注目してもよいのではないかと感じました。
この成功の陰に、商店街の方々をはじめとする多くの住民の皆さんの多大なるご協力があったことは言うまでもありません。一時は斜陽化が叫ばれたこともある神楽坂。「街の活性化」目指して長きに渡り努力を繰り返して来た歴史があります。その懐の深さゆえ、着地点を共有する文化イベントということで受け入れてくださったのではないかと考えています。主に劇場系の伝統芸能普及の手法の一つとして、今後各地での展開が期待されます。
毎度強調するように、「伝統芸能」と言っても、能・狂言、歌舞伎、日本舞踊などの演劇・舞踊、そしてさまざまな音楽、落語、講談、浪曲などの演芸、各地域に伝承される民俗芸能等々、言葉でひとくくりにすることは決してできません。そして、各ジャンルごとに丁寧に向き合って行かないと、次世代への伝承は叶わないのです。
「日本の伝統文化と現代社会との接点づくり」を少しでも着地点に近づけるために、行政の文化事業の果たす役割は多大です。来年以降もその意義を、具体的実践を伴いつつ訴え続けて行きたいと考えています。
四季を感じ難いこの時世に、両日ともに見事な「秋晴れ」のもと、存分に秋を満喫しつつ実施することができたことが何よりの救いでした。
『カナガワ リ・古典プロジェクト 2014』は、「江の島」で開催しました。江の島シーキャンドルサンセットテラスから相模湾を臨む絶景。右横の鉄骨は江の島の灯台。ここにステージが組まれました。
11月15・16日に開催された『神楽坂まち舞台・大江戸めぐり』。富山県城端『曳山祭り』で披露される「庵唄」の皆さまをお招きしました。
>>『カナガワ リ・古典プロジェクト 2014』 チラシをダウンロード[PDF形式/807KB]
>>『神楽坂まち舞台・大江戸めぐり 2014』 チラシをダウンロード[PDF形式/680KB]