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COLARE TIMES
【其の百八】パフォーミングアーツのエントランス vol.6『琉楽』のススメ
2023年1月
2001年4月に初めて沖縄を訪れてから早20年余、公私ともにこれほど大きな影響を受けるとは思いませんでした。沖縄の魅力には底がありません。
沖縄の文化を象徴する楽器「三線」。衣食住の延長に“歌って踊って”が当たり前にある土地柄であり、常にそれら芸能と共にあった楽器であることも周知のことです。折しも信長・秀吉の時代、琉球との交易の中で日本に流入した三線が三味線に姿を変えて、やはりその後の日本の芸能を支える存在となって今に至ります。
12月11日、沖縄県宜野座村文化センター がらまんホールで「三味線三昧!in 沖縄」という公演を行いました。人形浄瑠璃を支える義太夫三味線、歌舞伎と共にある長唄三味線、民謡に寄り添う歴史的に新しい津軽三味線、そしてこれらのルーツにあたる三線が一同に会し、歴史的経緯に沿って展開するコンサート……ロビーではアジアの三弦楽器を展示するなど、まずはさまざまな演奏を聴き比べて楽しんでいただくことが目的ですが、三味線という楽器を通して「文化の系譜と多様性」をお伝えすることも目的の企画公演です。沖縄→流入の地・堺→地域の郷土芸能に不可欠の楽器として根づいた地・徳島、3か所の公共ホールが連携して実施することも意義深いことと考えています。
三味線の音色に接したお客さまの大きな反響、司会者が「ご自宅に三線がある方?」の問いかけにほぼ全員の方が手を挙げた光景は焼き付いて離れません。
沖縄の芸能は、島の歴史と深い関わりを持ちます。17〜19世紀にかけて、琉球王朝は中国からの使節(冊封使)を舞踊や組踊(※)で歓待しましたが、その伴奏音楽として発展したのが宮廷音楽。これらに携わったのは士族と言われる支配階層の男性でした。明治になり琉球王国が日本に併合された段階で、士族の身分も廃され、宮廷音楽そのものが消滅したことで、音楽家たちも三線や箏などの楽器たちも一般庶民の中に溶け込んでゆくことになります。特に三線は、民謡は言うまでもなく、現在ではジャンルを問わず沖縄のあらゆる芸能シーンで幅広く演奏されています。
今「リュウカツチュウ」というYouTubeにハマって抜け出せません。棚原健太さん(歌三線)、高井賢太郎さん(琉球舞踊・組踊)、町田倫士さん(琉球箏)……琉球芸能の前線で活躍する3人の若い実演家が次々と配信する番組の数々が面白過ぎます。何よりすばらしいと思うのは「足元」を見続けていること。若い世代の等身大の視線で、素直に力まず琉球芸能の本質とその背景にある沖縄の今の社会を伝えています。確かな技術と表現力に裏打ちされた演奏に聴き入り、そして彼らの人柄が滲み出る、飾らない言葉で随所に語られる自身の本音にも何とも好感を抱きます。
コラーレお馴染みの企画、パフォーミングアーツのエントランス vol.6『琉楽』に、棚原健太さん、町田倫士さん、そして琉球笛・大城建大郎さんの3名が出演されます。格調高い琉球古典音楽を中心に、心優しくも楽しい民謡まで、沖縄の音楽の数々を分かりやすく楽しいお話と共に届けてくれることでしょう。
(※)組踊は、踊奉行であった玉城朝薫(1684 – 1734)により、1719年に初演されました。300年の歴史を誇ります。