ラレコ山への道 蝉丸 徒然日記
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Vol.57 「山海塾」秋ツアー2017 トビリシ(ジョージア国)
2018年5月
山海塾の秋のツアーは、10月12日からフランスのブラニャック、セットの2都市で「MEGURI」を行いました。天児牛大、岩下徹の帰国後は、ラザレという保養地に滞在しながらワークショップを行いました。
10月23日、マルセイユ空港でフライトの手続きをしていると空港職員も含めてすべての人が建物の外に退避させられ、警察官や消防車が物々しく動き回り、警察車両から電気ケーブルのようなものが建物内に引き込まれました。5秒ほどのカウントダウンの後、小さな爆発音が響き車両は引き上げて行きました。同様の不審物騒ぎには何度か遭遇したことがありますが爆破するのは初めてです。
マルセイユから遅れたフライトで経由地のミュンヘンへ向かい、日本から来た長谷川一郎と合流、無事トビリシに向かうフライトに間に合いました。トビリシ到着は定刻の真夜中3時半でしたが、空港では多くの人や車が行き交いとても真夜中とは思えない雰囲気でした。
トビリシはジョージアの首都です。日本では2年ほど前までグルジアと呼んでいた国です。黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス地方に位置するスターリンの出身国です。ロシア語では「コーカサス」をカフカスと発音し、私が若い頃よくショーダンスで使った曲名なので一度は行ってみたいと思っていました。ジョージアでは自国のことをサカルトヴェロと呼び、文字はまるでわかりません。
24日は休みだったので、フェスティバルの案内で古都ムツヘタという北方の町を見学しました。大相撲力士の栃ノ心はここの出身だそうです。山の上に1400年前に建てられた修道院があり、そこから二つの川が合流する様子がよく見えます。悠久の時を感じる風景です。
25日、リハーサル終了後、フェスティバルが関係するアクターシアターという小さな劇場に地元の公演を見に行きました。入り口前にこの国の有名な演出家の彫像がありましたが名前は読めません。
ホテルの近くのレストランで食事をする事にしたのですが、メニューがわかりません。照明スタッフの女性、小泉がウェイターに何か言うと、別の女性が出てきて二人で話し始め、その後、小泉がメニューの説明を始めました。二人はロシア語で話していたのです。ジョージアは20年ほど前までソビエト連邦の構成国だったので、今でもロシア語を話せる人が多く居るそうです。そういえば彼女と初めて会ったのはモスクワの劇場で、留学中の彼女が照明の仕込を手伝ってくれたときでした。
26日、午前中は古い街並みを散歩し、若い人たちは温泉に入りました。硫黄の臭いがする川が流れ色々な温泉施設があります。数人でバスタブと居間が合体したような部屋を借り切るシステムが一般的なようです。
午後リハーサル終了後、日本大使館でレセプションがあり、日本食をご馳走になりました。上原忠春大使は元保険会社員で外務省担当だったという珍しい経緯の方で、単身赴任中です。奥さんは日本、子どもはアメリカに住んでいて、クリスマスには集まりやすいジョージアでパーティーをするそうです。
27日、ようやく劇場で仕込開始ですが、搬入口にトラックはあるのに運転手がいなく、鍵が掛かったままです。昨日の技術打合せでも照明機材に問題があり、小泉は大使館のレセプションに出席せずに仕込み図を書き直しました。悪い予感がするスタートです。1時間ほど過ぎてようやく搬入が始まりましたが、今度は搬入エレベーターが故障してしまい、搬入口から表玄関口まで別の車で運んでからの手運びとなりました。いろんな所から照明機材を集めてくれたのですが、電気ケーブルが足りません。客席でケーブル作りを何時間もしています。回路とケーブルが足りないので同時に点灯しても良い機材はコンボという状態にする事にしたので、それぞれの光量を調整することが出来ません。
夜、郊外のレストランでフェスティバルのレセプションがあったのですが、仕事の残っているスタッフは劇場に残り、ダンサー中心に参加しました。こういうのも仕事の内です。
28日、仕込が続きます。相変わらず客席で照明ケーブルを作っています。舞台や楽屋周りに何の担当か判らない人たちが出入りして何やら話していくのですが、仕事は一向に進みません。ずっと座ったまま何もしない人もいます。照明のフォーカスはジニーと呼ばれる高所作業用電動リフトで行うのですが、現地スタッフは危険だと言って乗りません。仕事が進まないので昔は照明スタッフだった舞台監督の中原がフォーカスし、小泉は舞台上で指示することになりました。
29日、公演当日となりましたが、相変わらず照明仕込が続いています。照明キューの打ち込みをしていると機材が古いので球切れしたり、ディマーが動かなくなったりします。現地スタッフが「壊れるから長く点灯するな」と言うのですが、そういうわけにもいきません。
上演作品は「金柑少年」なので私は出演しません。でも公演終了後、舞台上でフェスティバルから2017年の芸術賞というものを受け取り挨拶するという仕事があるので、髭を剃って綺麗な服に着替えました。ルスタヴェリ劇場というかなり大きな客席の小屋なのですが、4階のバルコニー席まで観客で埋まり反応も非常に良く、賞を受け取りに舞台上に出ると大きな歓声が上がり、冷や汗が出ました。
撤去作業は思いの外順調に進み、搬入エレベーターも直っていたのでトラックの積み込みも予定通り終わりました。ウクライナやシリアが危険な情勢なので黒海をフェリーで行くのかと思っていたのですが、ブルガリアのトラックがトルコを通ってフランスまで運ぶそうです。
翌日から南米で「UTSUSHI」公演となるので、そのための衣裳、舞台装置が入ったスーツケース4個をホテルに持ち帰り、一夜を過ごしました。翌日ホテルまでバスが来たのですが荷物を載せてくれません。言葉が通じないので困っているとフェスティバルの担当者が到着し、ようやくバスのドアを開けてくれました。
いろんな国に行きましたが、こんなに働かない人たちは初めてです。道ばたの物売りも商品を売ろうとする積極性がありません。大使館員の話によると、雇われているのでそれでも賃金が貰えるそうです。どうやら直属の上司の指示なしに自主的に働くことはないようです。ロシア語を駆使して劇場での仕事を遣り遂げた小泉もプンプン怒っていました。
写真上)古都ムツヘタ
ジョージア国の首都トビリシから北西約20kmにある、古都ムツヘタ。クラ川とアラグヴィ川の合流地点の近くに町が広がっている。5世紀に首都がトビリシに遷都するまで、当時のイベリア王国の首都として栄えていた。ムツヘタの歴史的建造物群は、ユネスコの世界遺産に登録されている。
写真中)トビリシの温泉公衆浴場
ジョージア国の首都トビリシにある温泉公衆浴場。トビリシという名前はジョージア語のトビリ(温かいという意味)に由来していると言われており、温泉と関係あるとされている。
写真下)ルスタヴェリ劇場
首都トビリシにある、ジョージア国立劇場「ルスタヴェリ劇場」。ジョージアで一番大きな劇場で、ロココ様式の装飾が美しい。1887年に建設され、ジョージアでも最古の劇場のひとつ。2017年10月29日、山海塾「金柑少年」を上演。