ラレコ山への道 蝉丸 徒然日記
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Vol.61 「山海塾」2020年11月 レユニオン島「UNETSU」公演
2021年6月
2020年は劇場公演を行う者にとって非常に厳しい年になりました。幸い新型コロナウイルス感染がまだ少なかった1月25日びわ湖ホール「ARC」、2月23日北九州芸術劇場「HIBIKI」を上演出来ましたが、5月中旬の世田谷パブリックシアター公演は1年延期となりました。公の劇場ですので決定には従わなければなりませんが、すでにチラシ作成、ダイレクトメール発送、前売りを開始していたので多大な経済損失です。6月にはイスラエル、クロアチア、ドイツの公演が組まれていたのですが全て中止となり、このままでは資金的に活動を維持できなくなります。出来るだけ支出を減らそうと東京の事務所を6月末に引き払いました。
この段階で11月レユニオン公演がまだ残っていたので、中止となった公演をその前後に入れようとフランスのエージェントも頑張ったのですが、コロナウイルスで劇場も閉鎖されているため連絡がスムーズに行きません。9月上旬にレユニオンの劇場と連絡を取り始めたのですが曖昧な状況が続き、舞台装置を送る船荷が間に合わなくなってしまいました。パリに置いてある舞台装置は使えないか? 他の作品に変えられないか? いろいろ検討しましたがどんどん時間が経過していきます。主催者はどうしても「UNETSU」を上演したいらしく、最終的にエアーカーゴで最低限必要な舞台装置を運ぶことになりました。大きい物や重い物は現地製作する事にして、その指示のための図面や写真を送り、現地スタッフと遣り取りしました。
レユニオン島は、インド洋のマダガスカルとモーリシャスの間にあるフランス領の島です。2011年に「UTSUSHI」公演を行っています。搭乗72時間以内のPCR検査陰性証明書が必要になるので、10月30日に魚津緑が丘病院で検査、31日に陰性証明書を受け取り、自家用車で成田に向かって出発。帰国後は公共交通機関が使えないので成田空港近くの駐車場に保管して置きます。フランス政府の追跡調査が可能となるQRコードを持たされ、メンバー11人でパリ行きの飛行機に乗りました。
12時間のフライト後、この日11月1日から再びロックダウンとなっているパリに到着、エージェントのガエルと合流、予約済みのタクシーでシャルル・ド・ゴール空港からパリ=オルリー空港へ移動。10時間のフライトで11月2日レユニオン島に到着しました。昼過ぎにホテルに到着し、技術スタッフと劇場下見と打ち合わせ、夕方みんなで海岸近くのレストランで食事をしました。
11月3日朝、バスでホテルから劇場に移動。劇場は前回と同じシャン・フルーリ劇場(TEAT Champ Fleuri)。しかし日本から送った舞台装置がまだ到着していません。荷物も私たち同様パリの空港を移動して昨夜出発したので、もうすぐ着くとのこと。とりあえず手持ちで来た道具で劇場床に実寸の目印を付け、照明機材の吊り込みから始めました。「UNETSU」は上演中、絶えず一筋の砂と水が降り続ける演出です。今回は現地で砂を手配しているので、確認したところビニール袋に入ってはいるのですが、開けてみると湿っています。乾いた砂を探してもらいましたが、この島では屋外保管の物しか無くすべて湿っているとのこと。これまでに経験済みですので、搬入口にシートを広げて砂を撒き、照明を当てて扇風機を回し時々かき混ぜて乾かしました。午後4時過ぎ、ようやく舞台装置が届き、吊り物などを仕込み照明のフォーカスに取りかかりました。今回は2日間仕込みなので、それほど慌てず済みました。翌日は舞台上に踊り場となる水を貯めるプール作りと通し稽古です。日本の平台の代わりにスチール製の1mx2mサイズの物が用意されていたのですが、その上を覆うリノリウムのサイズが違います。劇場スタッフが切りたくないというので見た目が悪いのですがそのまま使い、照明など余り当たらないように工夫しました。
11月5日公演初日。この島でもコロナウイルス感染が始まっているので観客状況が心配ですが、場内誘導を見ていると知らない人とは1席空けて坐るようにしているようです。有効客席数は推定500人。初日の観客は85%、2日目は90%、最終3日目はソールドアウト。観客の反応はとても良く、主催者も喜んでくれました。
日本へ戻す舞台装置は船荷となるので、1ヶ月以上掛け、赤道を通過して来ます。かなり熱と湿気の影響を受けるので、濡れた衣裳はホテルで干して日本に手持ちで帰ることにしました。公演翌日は乗り継ぎの関係で夜9時45分のフライトです。主催者がバスで島の観光に招待してくれました。ここは3,000m級の山がある火山の島でいろんな景勝があり、世界遺産に登録されています。山の中を散歩したり地元の料理を食べたりしてのんびり過ごしましたが、ここから30時間掛けて帰国します。税関ではいつも以上に慎重な検査が行われ、航空会社の職員も疲れているように見えました。
パリからのフライトは乗客が驚くほど少なく、500人乗りの飛行機に50人も乗っていません。日本の入国制限を考えると、よほどの事情がない限りフランスから日本に来る外国人はいないのでしょう。成田到着後、誘導されたPCR検査待合室の椅子に振られた番号は36番までしか埋まりませんでした。検査そのものは45分ほどで結果が出て11人全員陰性で通関できました。通常はここで解散となるのですが、今回は私の車でメンバー4人を都内の自宅に送り、私自身は翌日帰宅しました。それから2週間自主隔離が始まり、毎日保健所に体調報告、家では別室で生活しました。
いろいろな経験をしてきましたが、この年になってこんな経験をするとは人生なかなか終わりません。2021年は5月に北九州芸術劇場、6月に世田谷パブリックシアター、6月中旬から7月はヨーロッパ、9月は豊岡、11月はイスラエルが計画されているのですが、コロナウイルス次第です。
シャン・フルーリ劇場(TEAT Champ Fleuri)
レユニオン島にある劇場。この劇場で山海塾は、2011年11月に「UTSUSHI」を上演し、今回は「UNETSU」を上演。
レユニオン(Réunion)
面積2,512㎢、神奈川県と同じくらいの大きさのフランス領の島。インド洋に浮かぶ高級リゾート地として、フランスを中心に、世界中のセレブたちが集まる場所として人気です。
レユニオン島は火山によってできたという歴史があり、2010年に「レユニオン島の尖峰群、圏谷群および絶壁群」として世界遺産に登録されました。
写真は、山肌から流れる滝。