ラレコ山への道:国際交流員「目からウロコ」

#08 ハロー!(笑)

2013年4月

 3月17日。カナダでは、アイルランド系人の日。日本で4時半ごろ、自転車に乗って体育館へ向かっていた。普通の日曜日のようだった。高校生が何人か通った。「ハロー!」と挨拶され、後ろに笑い声が聞こえてきた。
 前の国際交流員、ティンさんは「国際化」についての記事を書きました。「ただの通訳者」……私は、「ただの外の人」。上に述べた日記のような文章は、本当に起こりました。もしケベック州で誰かにそんな挨拶をしたら、大変失礼です。挨拶の後の笑い声のことだけではありません。「ハロー」の挨拶も失礼。富山県に来てから、何回かそんな挨拶をされたことがありました(6年前の東京では、1回もされたことがありませんでしたが)。この挨拶はとても失礼だと書きましたが、地元の友だちに話をしたら、実は明らかな「差別」だと目からウロコ。

■「ハロー」という挨拶
 今までの国際交流員は、みんな英語圏の国からやってきました。私も日本人にとって英語圏の国から来たように扱われていますが、地元ケベック州の環境は「フランス語」、文化は英語圏と全く異なります。お互いに「ハロー(Hello!)」ではなく、「サルー(Salut!)」という表現で挨拶を交わします。もちろん、外国人やケベック州以外のカナダ人から英語で挨拶されたら許します。フランス語ができない人がたくさんいるからです。ですが、ケベック州では、どの人にも最初に「サルー」と挨拶します。なぜかというと、相手を最初から「内」の人として扱い、仲間とみなすからです。もしフランス語ができない外国人だったら、英語か違う言語に変えて話を続けます。
 日本では、そうじゃないようです。富山に来てからは、何回も「ハロー」と挨拶されました(笑い声なしでもね)。私の国籍がカナダだからまだいいですが、日本に生まれ育った日本語しかできない「外国人」の顔をしている人なら、どうでしょう?これらの行為は、カナダでは差別ということとなります。自分の顔は選べません。どうやっても目を黒にすることなどできません。もちろん、「外国人」の顔をしている日本国籍の人もイッショ。「ハロー」と挨拶されて、寂しく感じているそうです。国際化を目指している地域は、気をつけなくてはいけません。
 2月に、まちづくり協議会のイベントで短い発表をしました。発表の中で私のことを指すのに、日本人にとって印象のよくない言葉「外の人」という表現を意識して使いました。後で「どうして使ったのか」と訊かれましたが、知らない日本人に最初から「ハロー」と挨拶されたら、私が「外の人」と扱われたような気がします。周りの人と同じように「こんにちは」などと日本語で挨拶してもらえないでしょうか。もし日本語を話せない外国人だったとしても、日本語で挨拶されて嫌な思いはしません。逆に嬉しく思います。「差別」というのは、その人たちを嫌うときだけじゃなく、無意識でも人種を区別してしまうことでもあります。

■ワニの真似をする
 
私が勉強したエスペラント語の表現の中で、この経験にふさわしい言葉があります。「Krokodili(クロコディリ)」という言葉です。もともとは「ワニであること、ワニの真似をすること」という意味でしたが、言語を大事に思うエスペラント語話者に便利な意味に変わって、「ある場面でふさわしくない言語を使ってしまうこと」という意味になりました。非常に印象がよくない言葉で、もしエスペラント語話者が「ワニの真似をしてしまった」ら、その人はとても失礼に思われます。
 日本では、私に英語で挨拶しても、ふさわしい場合がもちろんあります。学校で英語を教えていますから、校内で英語で挨拶されたり話しかけられたりすることはとてもふさわしいです。教えている学生と校外で会ったときに英語で挨拶されてもいいです。お互い勉強になって、英語を恐れないようにするためです。普通に英語で会話する人とも、もちろん英語で挨拶を交わします。フランス語もエスペラント語も日本語も同じですね。知り合い同士で決めあった挨拶だったらOKです。失礼にとられず、「ワニの真似をする」ようになりません。
 でもそれ以外の場合、英語で挨拶をされたら、ほとんど差別されているような気がしますね。私は今、日本に住んでいます。日本で仕事しています。日常生活は黒部市民と一緒です。国際交流の担当だといっても、国籍が日本じゃなくても、英語ができても、私の家は黒部市内です。日本に日本語と異なる文化があっても、日本語を5年ほど頑張って、日本を意識的に選びました。この記事も、翻訳されず私が分かる日本語で直接に書いています。ですから、「こんにちは」などの日本語で挨拶していただければ、非常にうれしいです。「外の人」いう気持ちが「内の人」に変わります。差別がちょっとなくなった気がします。

■国際化とは?
 
国際化とは、いろんな意味があります。でも国際化を分かるためには、国際化に当たる反対語が必要です。国際化にならないことは何でしょうか?カナダでそのひとつは、外国から来た人を受け入れないことです。つまり、「外の人」を「内の人」にしてくれないことです。カナダでは、そうする人は、差別をする人といいます。そして、挨拶だけで差別することになるのです。もし、ある日本人がケベック州にやってきたとして、フランス語のケベック人に何十年経ってもいつも英語で挨拶されたらどうでしょう?そして、ケベック州で子どもができて、フランス語しかできないその子どもにいつも英語で話しかけられたら、どう思いますか? 子供の気持ちはどうでしょうか?「内」になりそうでしょうか? ならないし、大嫌いになると思います。
 そしてこんな差別は、日本の文化のひとつじゃないと思います。10月号に述べた「郷に入るは郷に従え」ということわざはその証だと思います。日本人であれば、住んでいる場所の決まりに従うだけで、誰でも受け入れてもらえるでしょう。でも、もし海外の顔をしている人だったら、日本人と同じように接することができるでしょうか。できないのなら、差別に違いなく、国際化ができなくなります。でも、できるはずです。黒部市でも私を受け入れてくれた日本人に会えました。日本人が最初に英語で挨拶をすることは、ただのくせです。そのくせは直した方がいいでしょう。
 地元のケベック州でも50年前は、先に述べた日本人のような話が実際ありました。でも今はくせを直しました。くせを直しても、ケベック州の文化は保てて、移民と共生でき、国際化ができました。今、ケベック人らしい移民系の人が非常にたくさんいます。
 受け入れるということは、挨拶からできることだと思います。地元ではフランス語で挨拶することから始まりました。外国人の顔をしている人と出会っても、最初は日本語で挨拶をしてみてください。英語で会話をしたい場合でも最初の挨拶は日本語して、お互いその後の会話を英語にすることに決めてから英語にしましょう。日本語がまったくわからない外国人もいますが、その場合は挨拶の後で英語に変えて話を続けましょう。富山県や日本に住んでいる外国人なら、絶対に喜ぶと思いますよ。そうしていくと、富山県は「宿」ではなく「家」になります。


シュガーシャックの伝統的な料理

 シュガーシャック(sugar shack/メープルシロップを作る工場の名前)の伝統的な料理を、同僚の家で作りました。地元ではメープルシロップを作る時期に必ず1回は食べます。カナダ風豆スープ、オムレツ、ジャガイモ、メープルシロップ煮込みウインナー、揚げクレープ。おいしいですよ!

(2013年04月 COLARE TIMES 掲載)

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